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忘れられた神
前七五三年──初代王ロムルスによって拓かれた時、
パラティヌスの丘に作られた一集落に過ぎなかったローマの街は、
数百年と経たぬうちにその権勢を強め、北は極寒の北海から南は灼熱の砂漠まで、
広大な版図を誇る、世界屈指の国家となって行った。
彼らの行く所には、常に権益があり、秩序があった。
彼らは、そこが何処であれ、
母市と同じ市場を造り、浴場を造り、神殿を造った。
属州の各地に建設された小ローマは、
彼らの支配に下った多くの者たちに、平和と安寧の中に土地を耕し、
子を育てることの出来る環境を長く供与したのだ。
彼らは征服者であったが、同時に、庇護者としての側面も有していたのである。
古代より、かの国を守護する三主神の一人、
建国者の父たる軍神マルスは、対照的な二つの姿を有する。
其は、戦士として先頭に立って戦う神、グラディウス。
他は、平和を愛する平穏の神、クイリヌス。
彼らは同一の存在でありながら、激昂する時には軍神マルス、
静穏にある時には、軍神クイリヌスと称されるようになった。
すなわち、クイリヌス神とは平和を司り、
都市の中で崇拝される戦争の神、マルスに外ならないのである。




