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人魚王子~第一話
「エリカ……これ」
ロケットを元の持ち主である彼女の手の平に握らせる。
エリカの目が見開かれ、戸惑って何か云おうとするのを遮り、
ハルカは云った。
「お母さんの形見だろう? やっぱり、オレが持っているより、
エリカが持っていた方がいい。そばにおいて、お母さんのことを
祈ってあげて」
「でもそれじゃ……」
「いいんだ。誰が助けようと、エリカの命はエリカのものだもの。
だからエリカは自分の命を大事にして、しっかり自分が決めた道を
歩むんだ。これはそのお守りだよ」
「ハルカさま……」
涙ぐみ、ロケットを握りしめる。
ハルカは最後に彼女を引き寄せ、額を合わせた。
(さよなら)
だが、言葉にはせぬ。
ゆっくりと彼女の乗った馬車が遠ざかる。肉眼ではもうお互いの
表情は認識できない距離にまで離れたと思った時、うっとハルカの
喉が鳴り、目頭が熱くなった。
(やば――)
この年になって、子供のように、大声を上げて泣きたくなる時がある
とは思いもよらなかった。
恋を失うということは、年齢に関係なく、わんわん泣きわめかずには
いられないのだろうか。どんなに流しても、この涙は枯れ果てぬもの
なのだろうか。
それとも、もっと大人になれば泣かずに済むのだろうか。
自分を選ばなかった相手が他の誰かと掴んだ幸せを、心に一点の
曇りもなく祝福できるようになるのだろうか。
嗚咽を堪えようとしてひきつった口に、ぐっと何かが押し込まれた。
驚いて振り向くと、レンがにっこり微笑んで、アメ玉の袋を掲げて
見せた。
「頑張ったから、ごほうびです」
ハルカは無理に怒った表情を作って、レンを睨みつけた。
レンは「おお、怖い」という風に首をすくめ、しかし全然怖がって
いない証拠にその唇には笑みが浮かんでいた。いつもと同じからかう
ようなものなのに、ハルカは今はなんとなく救われた気がした。
「さあ、帰りましょう。明日から学校ですからね。大急ぎで準備を
しなければ」
ふわりとたなびいたマントの向こうに、優しく微笑んだミアと、
心配顔のティモが見える。
ハルカはそちらへ足を踏み出し、最後にもう一度だけ後ろを振り返った。
アメ玉が口の中で転がった。
ほのかに甘く、塩辛い味がした。




