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父と子 ~Gladiator断章 -前-

[2 bookmark]    [54 拍手]  投稿者:八楽 蒼

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陽の暮れたローマの街は物騒だ。
壮麗な神殿が建ち並ぶ一角から、一つ角を曲がれば混沌とした路地が迷路のように広がっている。
如何わしい安宿からは、娼婦のけたたましい笑い声が響き、
薄汚れた集合住宅の物陰には夜盗が獲物を狙って息を殺す。美しい首都の違わぬ醜い側面──
そんな光景になぞ目もくれず、クイントゥスはただひたすら、アルタ・セミタ通りを目指し馬を駆った。

(小父上──)
胸騒ぎが、した。
何か、良くないことが起こる予感が。
昨秋の皇女襲撃以来、事ある度に己に仕掛けられた策謀の罠が……
その魔手がユウェナリス小父にまで、伸ばされようとしているのだ──許さぬ、と彼は怒りを滾らせた。
夢の成就の為には、何も、誰も、顧みぬと誓った。
かの存在の為なら、傀儡にも羅刹にも成れる──と。
冬の夜、心ならずも友に背いた償いに、相手の遺した夢を追うと決めた。その為に、身も名も賭すのだと。
実際、夢の為に、幾つもの生命を犠牲にして来た。
想いも、心も、何もかも、棄て去って来た……だとしても。

(……貴方だけは、犠牲には出来ない)

結局、とクイントゥスは思う。
結局、自分は手前勝手な人間なのだ。
どれほど強く心を鎧っても、最後は肉親の情の前に脆くも跪いてしまう──
他者を虐げ、すべてを擲っても、必ず成就させると誓った夢より、己が情を優先してしまう。
克己であれ、と自らの心を叱責しても。小父を──父を慕う心が勝ってしまう。
(貴方だけは……)
手綱を取る手に、知らず力が籠る。
掌に爪が食い込むほど、強く握った右手は血色を無くして白い。
左手は、無意識に剣帯へ掛かっていた。




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